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春夏振り返り③ 人間の営み

更新日:10月10日

夏の出来事で心に残ったことは他にも色々とありました。レッスン・講義・演奏・学会・審査・会議…などと毎週のように異なる頭と体の使い方をしていて、中には講義してすぐ演奏に駆けつけて、という日もあって、使った頭の残存があるなか体を使い、体の残存があるなかでまた頭を使い、という感じで、身体のあちこちが刺激的な日々でした。


これまでの私の経験にはない刺激をいただいたのは、自分が作った曲を聴くという体験でした。

以前にも書きましたが()、三島の伝統囃子「しゃぎり」の芝町青年会の方から会の100周年記念として作曲を委嘱いただき、先月の三島浅間神社例祭と今月の三嶋大祭でお披露目されました。


これまでにないような感じの曲をというリクエストにお応えするつもりで、特に笛のパートには今までにないようなハモリや掛け合いを入れてみたので、練習が難しい曲になってしまったかと思います。

ですがみなさん春からずっと練習を積んでくださり、浅間神社でのお披露目の際には私まで山車に乗せてもらい一緒に吹かせていただきました。


自分が作った曲を聴くのは言葉で表現できないとても不思議な感じで、嬉しくもあり恥ずかしくもあり…みなさんが一生懸命、そして楽しんで演奏されていることにただただ有り難い気持ちです。

バッハのように音に隠し文字を入れ込んだ部分は残していただけると嬉しいですが笑、他は演奏者のみなさんの手に合うようにどんどんと変えていっていただいて、末長く育てて愛される曲になっていくといいなと思います。


こちらにて初披露のご案内が間に合いませんでしたが、一緒に吹かせていただいた時の模様を一部アップさせていただきます。

この前日まで、県内はかなりの暴風雨で心配でしたが、会の方によると毎年お祭りの時には不思議なことに雨が避けるそう。古来、大きな音は悪いものを追い出し場を清めるために鳴らされてきましたが、三島の上空だけぽっかりと雲が開いた、大音量に包まれた空間のなかで、まさにそのことを実感する不思議な力を感じました。


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7月末には京都大学で開催された日本カンボジア研究会にて、カンボジアの音楽教育とその社会的展望についての発表をさせていただきました。


カンボジアの音楽教育に携わって足掛け9年。子どもたちの変化や、都会と田舎の音環境や音感受の違いなど、考察を深めてみたい経験が蓄積されてきたため、全国のカンボジア研究の専門家の方々からご意見を賜われたらと、思い切って参加してきました。

研究会はカンボジアらしい温かさと人間らしさに満ちていて、第一線で活躍されている先生方からのご意見や応援をいただき、私のようなものにも分け隔てなく接してくださったことが印象的でした。


フランス音楽研究をしている人はフランス人らしく、ドイツ音楽の人はドイツ人らしくなっていきますが、どんな分野でも突き詰めていくと、その対象に近づいたり同化していったりするのですよね。

自分が追い求めるものが音楽や研究など人間以外のものだったとしても、求める先に存在したり暮らしたりしている人間の生き方を尊敬できるかどうかは、職業選択や人生設計の中で案外見落としがちなのかも、と思ったりもしました。


中学生の時に父が、「職業を決めることは自分がどういう人間になりたいか決めることだ」というようなことを言っていて、その時はピンと来なかったのですが、今思うとその言葉の重さがよく分かります。

カンボジアのどこに魅力を感じるかとよく聞かれますが、やっぱり人です。本当に温かい。そんな人間に自分もなれたらと思います。


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昨年拝命した静岡県文化政策審議会委員も、数回の審議会を終え、委員のみなさまの見識の深さに毎回大きな学びをいただいています。

審議会では、文化政策という広くて深い範疇を扱うため、どのようにしたらもっと静岡県民が幸せな文化的生活を送ることができるのか、という哲学的な題に対して、知恵を出し合い奮闘しています(奮闘は私だけかもしれません)。


静岡県は歴史が深い分、文化芸術の各分野を一括りにできない難しさがあります。その分野ごとに異なる常識や使用言語・コミュニケーションの独自性があり、当事者と本当の意味で意思疎通ができるようになるためには、かなりのスキルと見識が必要なのだろうと感じます。


文化も芸術も、結局はものではなく、人の営みの結果なのですよね。どのくらい深い眼差しで人の営みを見つめることができるのかが、自分の思考の中のまだまだ足りないところだなと感じていて、今年度、社会人聴講生として、静岡県大の文化人類学の授業を履修しています。


県大には特別講義でお邪魔しているので、ちょうど良い機会とタイミングで授業を受けることができて、世界を見る見方の枠組みを増やしてくれるような気づきを毎回いただいています。

学ぶことは本当に楽しいですね。学びが自分のものになり、誰かの役に立てるところまでになればと思います。


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