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余白の大切さと時を超えた繋がり

あっという間に今年最後の月となりましたね。寒いのは好きではないですが、11月から12月へと月が変わったときの空気感の変化がなぜかとても好きで、今の空気を存分に感じながら久々にゆったりした気分を味わっています。


今年は前半に仕事が集中したので、例年よりは移動の少ない秋を過ごすことができました。とはいえ演奏以外の仕事は例年以上に多く入り、仕事の入り方というのは自然の摂理に近いようで面白いものだなと感じています。


例えば、何か新しいことを始めたい場合には、スケジュールに余白を持っていないと取り掛かることがなかなか難しいですが、余白を作るにはフリーランスの場合かなりの覚悟が要ります。いただく仕事はご縁の賜物であり、それを断ってまで余白を作ることはしたくないけれど、自分のアップデートや学びのためには恒常的に新しいことに取り組む必要がある。

木を見ても、空間があればすくすくと育っていくけれど、密集していると伸びていかない。紅葉に色づく庭の木々を見ながら、人間も同じだなと実感しています。


それからまた、意図して余白を作ろうとしなくても、スケジュールが空いて図らずも余白ができる時もあります。そういう時には不思議なことに、これまでにやったことのない内容のオファーが来ることが多く、お仕事をいただきながらも自分のアップデートにも繋がるという、ありがたい経験をさせていただいています。


今年の特に後半にはそのようなことが多く、新しいことに挑戦しつつも、慌ただしさで近視眼的になりすぎることなく、これまでの仕事との関係や今後の方向性などを改めて考える機会を貰ったような年となりました。


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その一つが、これまでも書いている三島のしゃぎり囃子の新曲作曲でした。こちらは仕事としての依頼でもありながら、新しい挑戦でもあり、一年かけて芝町青年会のみなさまと関わらせていただきました。

青年会のみなさまとは、芝町の氏神様の三島浅間神社の例祭でもこの曲を一緒に吹かせていただきましたが、先々月には青年会発足100 周年記念ライブが三島市民文化会館にて開催され、新曲「水神」を再び共演する機会をいただきました。


三島は、教え子たちの、それも愛弟子といえる子たちの出身地でもあり、さらには、1ヶ月前に亡くなった祖母の実家があった街でもあります。その祖母の生家は、毎年8月に三島一帯のしゃぎり囃子が奉納される三嶋大社の参道にあったそう。


祖母の生家には幼い頃に行ったことがあるらしいのですが記憶にはありません。ですが、幼い私をみなとても可愛がってくれたと聞いています。

祖母は102歳で天寿を全うしたので、芝町青年会発足の2年前に生まれています。若き祖母も、三島の街に響くしゃぎり囃子の音を聞いていただろうし、きっと祖母の実家の人たちも、笛や鉦を奏しながらしゃぎりを奉納していたことでしょう。


祖母が亡くなったのは、100周年ライブが開催された翌々週でした。祖母の実家がある町内と芝町は別の場所ですし、このタイミングは偶然でしかないと思います。けれども、私が三島のしゃぎりと関わってきたことを、最後まで見守ってから旅立ってくれたのかな、とも感じています。


青年会の100年間の歩みは、祖母のおかげでとても身近に、祖母や親戚たちの人生とも重ね合わせながら、自分ごとのように感じることができました。

これまでの100年に思いを馳せ、これからの100年に繋いでいく。その記念となる曲を作らせていただくことができたことは、今生きている世界にあるご縁に加えて、時を超えた繋がりをも感じています。


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100年前、青年会が発足した頃のしゃぎり囃子はどのようなものだったのでしょう。今も継承されている伝統曲は、100年前と全く同じかといえば、きっと違うのではないかと思います。

奏者の鼓動でビート感は変わり、手の大きさで鉦や鼓の打ち方・笛の指の動きが変わり、男性が多ければ力強く、女性が多ければ柔らかな音になる。


私が作曲したものを、青年会の方々に演奏してもらうことも同じことで、作曲するときには、会のメンバー一人一人を思い浮かべながら、この方ならどう叩くかな、吹くかなと想像しながら作りましたが、それでもその音楽は、私の鼓動や私の手の動きからは切り離せないものです。

音楽が私の手から離れて、奏者の手に渡ったとき、その奏者の方たちが心地よく演奏できる音楽へと変わっていってほしいなと思います。それが人間的で自然なことだと思います。

そして、代が変わったらまた音楽も変わっていく。そのようにして、長きにわたり受け継がれていくことを願っています。


芝町青年会の歴史のほんの一部に私も関わらせていただいたことは、私自身の人生のなかでも特別な歴史となりました。巡り合わせに心から感謝いたします。










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